【調査レポート】沖縄に大量漂着した軽石と稚魚 Sato et al. (2023)
2021年8月に小笠原列島の南部に位置する福徳岡ノ場で大規模な海底火山噴火が起きました。海底から噴出したマグマは、海水で急速に冷やされ多孔質の軽石となって海面を漂い始めます。今日は、この火山活動によって生み出される軽石と魚類の興味深い関係を紹介したいと思います。
日本南岸を沿うように流れる黒潮には、黒潮反流と呼ばれる逆方向の流れが発生する。福徳岡ノ場の軽石は、噴出後すぐに黒潮反流と海上風によって西へ流され始めた。

噴火からおよそ2か月後の2021年10月、大量の軽石が沖縄各地に次々と漂着した。大量漂流する軽石は、船舶の航行に支障をきたし海面養殖された魚が餌と間違え誤飲するなどの被害をもたらした。被害の影響は大きく、沖縄県をはじめ全国でニュースとして取り上げられた。私たちはちょうど沖縄に滞在していたため、この歴史的な自然現象に立ち会うことができた。

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波打ち際から数十メートル沖まで軽石で埋め尽くされている。軽石の塊は波に揺られるたびに「軽石の波」となって海面に打ち寄せていた。沖縄の美しいブルーの海と対比され、まさに異様な光景である。海岸には大小様々な軽石を見つけることができた。実際に触ってみると、とても軽い。そして、もろく力を加えると割ることができる。


このような中、興味深いニュースが飛び込んできた。沖縄北部の辺士名漁港で、漂流する軽石の下から大量のある稚魚が見つかったのだ。一体、どんな稚魚が軽石を利用したのだろうか。私は真相を調べるため、共同研究者の桑村教授や研究室の同期後輩とともに調査をおこなった。
10月20日、私たちは今帰仁村の崎山ビーチを訪れた。こちらも同様に沢山の軽石が打ち寄せられていた。汀線を歩いてみるとすぐに稚魚が見つかった。こちらがその時の写真である。どこに稚魚がいるか分かるだろうか?実際に探してみて欲しい。

この写真の中には稚魚が少なくとも34匹も泳いでいる。見つけにくいと思っただろう。実は「見つかりにくい」ことが、この稚魚の戦略なのだ。
稚魚の正体は、アミモンガラ Canthidermis maculataという魚である。先ほどの写真の中央付近に集まっている。アミモンガラは、モンガラカワハギ科の魚類で、成魚は沖合で群れで生活している。稚魚は海面を漂う海藻(流れ藻)や漂流ごみ、そして軽石などの漂流物に寄り添う習性がある。このような習性は多くの稚魚類から知られ、沖合表層という「隠れる場所の乏しい」特殊な環境において水中と上空の両方の捕食者から身を隠すためだと言われている。

さらに、アミモンガラの稚魚は、軽石によく似ており隠蔽擬態により捕食者から見つかりにくいと考えられている。この説は、約60年前の1964年に内田恵太郎博士が発表した『稚魚を求めて』という本に書かれている(原典は約70年前)。確かに、水中から見るとアミモンガラを見つけるのは困難だ。さらに、上空から見ても軽石にそっくりである。
では、漂流する軽石の下に一体どれだけの稚魚が寄り添っていたのだろうか?私たちは軽石とその直下に隠れるアミモンガラを手網で掬い取り、生息密度を推定した。

すると、この日の崎山ビーチで確認された個体数はなんと1 m2あたり平均24個体と推定されたのだ。かなりの高密度である。軽石の漂着量を考えると相当な数のアミモンガラの稚魚が一時的に軽石とともにやってきたことを示す。しかし、他種の稚魚類はシイラCoryphaena hippurusが2個体だけ観察された程度でアミモンガラに比べて少なかった。
私たちは、アミモンガラの大量漂着について次のように考察している。アミモンガラの稚魚は軽石に似ることで捕食者から保護され、高い生存率を維持したまま沖合から沿岸に漂流することができた、と。

これを裏付ける調査事例がある。海面を漂う海藻類(流れ藻)に付随する稚魚の調査によると、沖縄の東海岸で採取された3696個体の稚魚のうちアミモンガラは60個体(出現率 1.6 %)であった。さらに、九州筑前湾では、5475個体の稚魚のうちアミモンガラは1個体のみである。今回の軽石からの出現率よりも圧倒的に低い。
さらに、アミモンガラの稚魚にとって主要な捕食者である成魚のシイラの食性の調査によると、胃の中から多量のアミモンガラと共に、ホンダワラ類(海藻)、木片、プラスチック類が見つかっており、軽石は見つかっていない。これは、シイラが流れ藻や漂流ごみに付随するアミモンガラを捕食する際に誤飲したもの推測される。つまり、シイラは流れ藻の周辺で狩りを行うことを示唆しているのだ。
以上より、今回の事例は、軽石の大量漂流という歴史的にも稀な出来事により、内田恵太郎博士の提唱したアミモンガラの軽石擬態仮説を支持する強い証拠を得ることができたと言えるだろう。内田博士は、本のなかで次のように述べている。
私の研究計画には、未完成なものが多かった。発展が予想されながら、研究の口火をつけただけに過ぎなかったものもある。しかしこれらは、次の時代の人たちによって、広く大きく発展していくであろう。
今回の調査研究が内田博士の計画を発展させられるものとなっていたら幸いである。
軽石の漂着から5年が経過した現在、軽石はどうなったのでしょうか。実は今でも海岸に行くと、軽石を見つけることができます。実は、軽石は世界中のどこかで噴出したものが常に漂っているのです。また、海岸に漂着したとしても、波や風などの作用によって再び海へと流れ出し漂流を繰り返します。軽石の長期間にわたり海を漂流するという性質がアミモンガラの軽石へ似る体色の進化に重要だったのかもしれません。
論文情報:
Hajime Sato, Yoichi Sakai, & Tetsuo Kuwamura. Protective resemblance to floating pumice stones by juveniles of the rough triggerfish Canthidermis maculata (Balistidae, Tetraodontiformes). Ichthyological Research 70, 301–304 (2023). Link
桃原ビーチに打ち寄せる軽石
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軽石の下を泳ぐアミモンガラ稚魚
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沖に向かって泳ぐアミモンガラ稚魚
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